さぁね、と彼は言った。


「つまり、君の言いたいことは、人を殺すことも一種のコミュニケーションなんだと
そういうことだろう?」
僕は尋ねた。


「そういうことになるね」
と、彼は言う。
事件現場からの帰りだった。なんで僕がそんなところにいたかというと、 それは僕が刑事だからだ。冴えない平刑事だけど。

結局、事件は仕事が忙しい夫にかまってもらえない奥さんが、夫と些細なことで口論になり、持っていた刺身包丁でぐさり。現場についた途端、奥さんがすべてを話しだした。

「さっきの奥さんだって、もし夫が彼女をかまっていたら殺人なんてしなかっただろうよ。
会話というコミュニケーションのかわりに、命を奪うという行為によってコミュニケーションを成立させたんだ」



「笑えない話だね」
「まったくね」



それから署について、熱い珈琲を飲むまで、僕らは無言のままだった。
その日は、寒かった。