その夜、三人はテレビ局に来ていた。
アランと稲葉が、夜の料理番組に出演することになっているからである。
アランは前に怪盗を捕まえようとして失敗したが、宝石だけを取り返したという
体験がある。その話を聞きつけた一春の知り合いのテレビ局の敏腕プロデューサーが、
今彼が担当している料理番組に、彼を出演させようと目論んだのである。
さらに、その隣の部屋にこれまた美男子の青年がいるという話を聞くと、
彼も出演させようと思いつき_____結果、稲葉も出る羽目になったのである。
番組は、有名な芸能人と、応募による一般市民とで料理対決をするという内容だ。
アランと稲葉は、一般市民ということになっている。
一春は、ハラハラしながら観客席から稲葉達を見ていた。
先ほどから、両者の中は険悪なのだ。
「さあ今宵も始まりましたー・・・・・・」
司会者が声を張り上げ____そして、止まった。
ゆっくりとスタジオ内に入って来たのは、一人のテレビ局員。



右手には一丁の、サブマシンガンを持っていた。







今日の運勢は最悪だよな、と一春は思った。
紅茶の茶葉は切れ、稲葉とアランは些細な事で口論を始め、あげくの果てがこれである。
過激派によるテレビ局の乗っ取り。
腐ったマスメディアに制裁を加えるためだと言う。
は、ふざけてんじゃねーよおめーら、その持ってる拳銃で頭を撃ち抜いて死ねや馬鹿
と思ったが、言えなかった。さすがに彼女も命は惜しい。
スタジオ内にいた人間は、スタッフから観客まで全員かき集められ、
重火器を持った手下共四人に見張られている。
サブマシンガンの男は、テレビ局にテロリスト共が侵入するのに手を貸したらしい。
司会者の知り合いだったらしく、彼は男を問い詰めている。
「なぜだ・・・なぜだ太田さん!なぜこんなことを・・・・・」
「すまない桑原さん。しかし・・・あまりの安月給に耐えきれなくて・・・
そんなことかよ。
アランと稲葉は、また口論を始めてしまった。
「まだ言ってるんですか、アンタは!かけるのはウスターソースに決まっているじゃないですか!」
「何を言っているんだ!大体君がだね、ケチャップを認めてくれれば、こんな事にはならなかったんだよ!」
言っている事がだんだん支離滅裂になってくる。
「おい、うるせぇぞてめぇら!」
手下が一人声を荒げ、銃口をチャッと彼等の方に向けた。
「風穴開けられてぇのか!」
「「お前には関係ない!黙っていろ!」」
あまりの気迫に、テロリスト達がひるんだ。
そのスキに稲葉は、がっこんと側に置いてあった機材を持ち上げた。
そして、テロリストの一人に投げつける。
「うぼ!」
そいつは完全に沈黙した。
「・・・・・・うそ・・・・あの機材、70キロもするのに・・・・・」
スタッフの一人が何やらぶつぶつとつぶやいている。
主犯格らしき男が青ざめた。どうやら悟ったらしい。
自分たちより恐ろしい人間がこのスタジオ内に存在していると。
「だからですねぇ・・・・・!」
また口喧嘩を始めてしまった。
「あのさ・・・・・・」
稲葉達と料理バトルをするはずだった人気歌手が、おずおずと一春に話しかけた。
「あの二人、何を言い争ってんの?」
「目玉焼きに何をかけて食べるか、だそうだ」
「なんでまた・・・」
「さあ。ところで、サインしてくれねぇ?」
「こんな非常時に?」
「非常時だからこそ、だよ。もしかしたら、これがあんたのサインする最後のチャンスに
なるかもよ?」
そう言って、にっこりと笑った。





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