午後三時、ごくごく普通の大学生稲葉硝のマンションの部屋にチャイムがなった。
図書館から借りて来たガーデニング情報誌を読み耽っていた稲葉は、そろそろクレチマスの植え替えをするべきか悩んでいたところだった。大学生は忙しいのだ。
「はぁーい」
彼は立ち上がり、玄関へ向かった。



そこにいたのはお隣さんのイギリス人、アラン・クロードだった。
「アランさん、お久しぶりですね。近頃姿を見かけなかったけど、どうしてたんですか?」
「京都に出張に行ってたんだよ。京都はとても美しい街だね。お土産に美味しいお菓子
を買って来たんだ。良かったらどうぞ」
そう言って彼は玄関にドサドサと箱を積み上げた。
「うわっ、何ですかコレ!?」
「日本のとてもsweetなお菓子、生八ッ橋だよ。取引先で出されたのがあまりにも
美味だったので、30箱ほど買って来てしまったんだ。ハッハッハッハ。
というわけで君にも五箱ほどお裾分け」
そんなにいらない。
稲葉は心の中で絶叫しながらも、箱を抱え上げた。
「じゃあそろそろおいとまするねー」
扉が閉じかけ・・・・そして、また開く。
「ああちなみに、賞味期限は明日だから!」
ついさっき帰って来たばっかりなんだよね〜と独り言をいいながら、
今度こそ扉がばたんと閉じた。



ちなみにそのあと、稲葉は緑茶でそのすべてを腹に流し込んだという。







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普通の人は30箱も買いません。