「っ、ギャァァァァァァァァ!!!
ある朝、少年の悲鳴がとある高層マンションから轟いた。

「くろーど!くろーど!ちょっと!どうしてくれちゃったざますか!!
「……思考回路が余計に酷くなってますよ、紘季クン」
紘季の悲鳴に起こされた赤屍の機嫌はとてもじゃないがいいとは言えない。
「オレはちゃんと帰りに食べ物買ってきてって言ったべさ!間違いない!!」
「…それなら昨日時雨さんに請求されたものがあったので手元には残らなかったのですよ」
その時この場にあらゆる意味で「それでいいのか」と思う者はいなかった。
「オレだって悲しくなってくる額アルヨ!」
「寝る前に見ましたがあれだけ残っていれば問題ないでしょう」
「拙者甘いもの苦手ですからァ!!切腹!!」
何も腹を切らなくても、と赤屍は思った。
「確かに、野菜室にもさつまいもしか入ってませんでしたが」
そう言った直後、「ならば何故さつまいもを買ったのだろう」という疑問が生まれたかどうかは定かではない。
「どこ見てんのよぉ?!」
もはや使い方も間違っている。それを自覚しているのか、首をひねりながらの言葉である上に語尾は上がっている。
「…壊れましたね」
キッチンで暴れ回る紘季を見て、赤屍は溜息をついた。
「どうしてそこまで甘いものが苦手なのですか?」
すると、紘季の動きがピタリと止まりその場の空気が一気に沈んだ。
「……間久部です」
「名前ではないのですか」
この場に複数の第三者がいたら、彼等の反応は1つにはまとまらないだろう。
「小さいころ、甘いものはとてもとても貴重だったとです」
「紘季クンの出生を疑ってもかまいませんか?」
「ある日、オレはチョコレートを貰いました。ギブミーチョコレートです」
「戦後ですか」
「当時のオレはそれをおいしく食べました」
「食わず嫌いではないということですか」
「しかし、この時のチョコレートは食べずに取っておくことにしました。数日後、チョコレートに蟻がたかっているのを見てしまい、それ以降甘いものは嫌いになったとです」
「…自業自得ではないですか?」
おまけにチョコレートだけにおさまっていない。
「間久部です…間久部です…間久部です……
「そこまでしなくていいですよ」
「あと個人的には『どぜうモン』でもいいかなと思った」
「やらないで下さい」
落ち着きを取り戻した紘季の言葉を赤屍は即座に却下した。
「そうでなかったら『笑う男』とか」
「古いですよ」
「ねぇ〜なんか甘くない食べ物ないのー?」
「知りませんよ」
「えぇ〜〜、なんかまだあけてない箱とか…あったあった!」
急にパッと顔を明るくした紘季が物置に駆け込んでいき、土産物が入っているらしい箱を持ってきた。
「前に馬車さんにもらったのすっかり忘れてたよ!」
包装を破り箱を開けようと手をかけたところで。
「っ、ギャァァァァァァァァ!!!
再び絶叫して今度は部屋から出て行ってしまった。
箱には、『白い恋人』と書かれていた。
その後、紘季が甘くない物にありつけたかどうか、赤屍は知らない。


<感想>
おもしろかったです。赤屍さんと彼は毎日の様に漫才をやっているのですね、きっと。
誰か私に教えてください、『笑う男』のネタがさっぱりわかりません。
(笑い男だったらわかるんだけどな・・・・・。)
紘季君は甘いものが苦手なんですか・・・・好きそうな性格なのに。


楓藤さん、ありがとうございました。