・・・・・アラン・クロードは、やっとのことで目を覚ました。
気のせいか、ぼーっとする。
やっとのことさで布団から起き上がり、リビングまで行った彼は
そこで_____驚くべきものを見た。








最強の酔っぱらい








そこにいたのは、彼と同じくらいの男。
真っ白なシャツに黒いズボン、端正な顔立ち。
・・・・・なぜここに、テレビで有名な怪盗が存在しているのだろう。
しかも彼のお気に入りのソファに寝転がり、毛布までかけている。
しかもソファの前に置いてあるローテーブルの上には、燕尾服のジャケットが
きちんと畳んでおいてある。
寝顔は口を開けて涎を垂らし___しかも、白目
「ファンが見たら絶対泣くな・・・・・」
彼はひとこと呟き、さてどうしようかと考えた。
1.カメラを取って来て写真を撮って雑誌かなんかに売り飛ばす。
2.警察を呼ぶ。
3.朝ご飯をつくる。
「・・・カメラは・・・がーん、フィルムが切れてる・・・くそっ、こんなときに限って・・・」
人生そんなもんである。
「警察は・・・呼んだら僕も共犯にされそう」
とりあえず彼は、朝ご飯をつくることにした。


美味しいものが出来上がる匂いがして、怪盗は目を覚ました。
頭がガンガンする。
なんだか脳味噌が小気味よくシャッフルされているカンジだ。
「あ、起きた」
この部屋の主は油のはねるフライパンを持ちながら怪盗ににこやかに笑いかけた。
「おはよう。ご飯できてるよ」
怪盗の頭の中でたっぷり1秒半、海馬がぐるぐるとまわりシナプスが音を立て、
そして彼は悲鳴をあげた。
「君!大丈夫なのか!?」
「大丈夫って、何が」
アランはきょとんとした顔で返事をする。
「何も覚えていないのか?君は昨日の夜、ビール瓶大瓶六本一気飲み
したんだぞ!」
「えー、記憶に無ーい」
「しかも、私がそそのかしたせいで!頭は!?吐き気とかしないか!?」
「ん?頭がぼーっとしてるけど、それだけ」
こいつは化け物か。
「あ、卵はオムレツでいいかな?パンはトーストしか無いんだ。悪いけど」
そう言いながらも彼は、カフェオレをカフェオレボウルに注ぐ。
「二日酔いにはみそ汁が良いって言うけど、みそが切れてたんだ。ごめんね」




そうだ、そういえばそうだったとアランは記憶の糸を引きずり出した。
確か昨日、新しい取引先の社長がいけ好かないヤツで、
帰って来てからやけ酒をあおっている所に怪盗がベランダに出現したのである。
どうやら彼も仕事上の問題で気に入らない事があったらしく、一緒に飲もうじゃないか
という事になった。
そして____ビールを何本飲めるかと怪盗に聞かれ、調子に乗って六本と答えたのである。
実際、二年ほど前にやったことがある。
ところが_____嘘だろうと怪盗に否定され、酒の勢いで逆上しいきなり瓶を掴んで
飲み始めたのだ。
それから後の記憶が無いところを見ると、どうやらそのまま酔いつぶれて寝てしまったようだ。
アランを寝室まで運んだのは怪盗でどうやら瓶やらグラスやらの片付けもしてくれたらしい。
「グラス、片付けてくれたんだね。ありがとう」
「ああ______ところでこの朝ご飯、食べてもいいのか?」
「どうぞ」
怪盗とそれを追っかける会社社長という奇妙なメンツで、その日の朝ご飯は開始された。